10月30日、NPBがFAの補償制度を大きく変えると発表しました。FAで選手を獲った球団が選手を1人差し出す「人的補償」が撤廃され、代わりにドラフトの指名権を渡す形になります。
昨オフは桑原選手や松本選手の移籍で、プロテクトリストを予想する動画も出してきましたが、その人的補償がついになくなります。本稿では、新しい制度の中身とドラフトへの影響、そしてFA移籍は本当に増えるのかを、数字を使って考えます。Xでの賛成・反対の声もまとめて紹介します。
この記事の内容は動画でも解説しています:【人的補償撤廃】FAの補償がドラフト2位・3位の指名権に…これ、FA移籍はむしろ減りませんか?
![]()
何が決まったのか
![]()
変更は、大きく3つの段階に分かれています。
1つ目は、今オフ(2026年オフ)からです。翌年の4月1日に35歳以上になる選手は、FAで移籍しても、元の球団への補償が一切いらなくなります。年俸のランクは関係なく、金銭も人的補償もなしです。
2つ目は、2027年と2028年のオフの2年間です。ここで人的補償が廃止され、ドラフト指名権か金銭の補償に変わります。
3つ目が、2029年のオフ。2年間の運用を見たうえで、もう一度話し合うことになっています。
つまり、今オフの35歳未満の選手には、まだ人的補償が残ります。新しい制度は、まず2年間の試しという位置づけです。
今までの制度
![]()
新しい制度を見る前に、今までのルールを確認しておきます。
FAで移籍した選手は、元の球団での年俸の順位でランクが決まります。球団内の日本人選手で、年俸1位から3位がAランク、4位から10位がBランク、11位以下がCランクです。
AランクとBランクの選手を獲った球団は、補償が必要でした。
| ランク | 人的補償を求める場合 | 求めない場合 |
|---|---|---|
| A(年俸1〜3位) | 年俸の50%の金銭+選手1人 | 年俸の80%の金銭 |
| B(年俸4〜10位) | 年俸の40%の金銭+選手1人 | 年俸の60%の金銭 |
| C(年俸11位以下) | 補償なし | 補償なし |
※2度目以降のFAでは、金銭の割合が半分になります。
人的補償では、獲った球団が28人をプロテクトできます。外国人選手や直前のドラフトの新人、育成選手も対象外で、選手を獲られた球団は、それ以外の選手から1人を選んでいました。
![]()
この制度は、たびたび騒動を生んできました。2018年オフには、巨人の長野選手と内海投手が、プロテクトから外れて人的補償で移籍しています。2024年1月には、山川選手の補償をめぐって、和田毅投手がプロテクトから外れていたと報じられ、大きな話題になりました。
主力級の選手を育成契約に切り替えて、補償の対象から外す動きも批判されてきました。選手会は、選手の移籍を妨げるとして、ずっと撤廃を求めていました。
新しい制度の中身
では、2027年オフからの新しい制度を見ていきます。
![]()
まず、ランクの区切りが変わります。Aランクは今まで通り年俸1位から3位ですが、Bランクは4位から8位までになり、2人減ります。そのぶん、Cランクは9位以下になり、2人増えます。
![]()
補償の中身はこうです。
| ランク | 指名権で補償する場合 | 金銭で補償する場合(目安) |
|---|---|---|
| A(年俸1〜3位) | 翌年のドラフトの2巡目の指名権 | 年俸の80〜130% |
| B(年俸4〜7位) | 翌年のドラフトの3巡目の指名権 | 年俸の60〜100% |
| B(年俸8位) | 指名権の譲渡なし | 年俸の60%のみ |
| C(年俸9位以下) | 補償なし | 補償なし |
指名権か金銭かは、まず選手を獲られた球団が選ぶ形と報じられています。獲った球団が指名権を渡したくない場合は、両球団の交渉で金銭に切り替えることもできるそうです。
![]()
今までとの一番の違いは、「選手」か「指名権」か、という点だけではありません。今までは金銭に選手1人が上乗せされていましたが、新しい制度では、指名権か金銭のどちらか一方になります。
なお、同じ年にAランクの選手を2人獲った場合の扱いなど、細かいルールはまだ報じられていません。
ドラフトへの影響
ここからは、ドラフトへの影響です。
![]()
まず時期ですが、指名権が動くのは2028年のドラフトからです。2027年オフのFA移籍の補償が、翌年のドラフトになるからです。今の高校1年生や大学2年生の世代にあたります。来年、2027年のドラフトには影響しません。
![]()
次に、どの球団が獲るかで、補償の重さが変わる点です。Aランクで渡す2巡目は、下位の球団ほど早い順番です。最下位の球団が獲れば、全体13番目ごろの指名権を失います。Bランクで渡す3巡目は逆に、上位の球団ほど早くなります。優勝した球団が獲れば、全体25番目ごろです。
指名権をもらった球団は、2巡目で2人を指名できます。一方で獲った球団は、1巡目のあと3巡目まで待つことになります。2巡目の上位で、高校生と大学生を両方取りにいくような、これまでにない指名が見られるかもしれません。
![]()
ちなみに、2位や3位からも主力は数多く出ています。柳田選手は2010年の2位、浅村選手は2008年の3位、山川選手は2013年の2位、牧選手は2020年の2位です。この指名権を渡すのは、決して軽くはないと思います。
35歳以上は今オフから
![]()
ここで、今オフから始まる35歳以上のルールを見ておきます。
今オフのFA有資格者は105人です。このうち、来年4月1日に35歳以上になるのは47人。半分近くの選手が、移籍しても補償がいらないことになります。
今年の該当者として報道で名前が挙がっているのが、DeNAの筒香嘉智選手です。ほかにも、DeNAの宮﨑選手や戸柱選手、巨人の坂本選手や丸選手、ソフトバンクの柳田選手や今宮選手なども、FA権を持つ35歳以上の選手です。
※年齢はWikipediaの生年月日から2027年4月1日時点で計算。有資格者はNPBの2026年度の公示によります。
![]()
昨オフには、ソフトバンクの東浜投手がFA宣言しましたが、獲得する球団が現れず残留しました。Bランクで補償が必要だったことと、年齢がネックになったと報じられています。東浜投手は今年の4月1日の時点で35歳でした。このルールが1年早ければ、補償なしで移籍できた計算です。
Xの反応
発表当日の投稿や、ニュースを引用した投稿を300件以上読みました。
肯定的な意見
![]()
多かったのは、プロテクトや育成契約をめぐる分かりにくさや不公平がなくなる、という声でした。選手の意思と関係なく移籍させられる仕組みがなくなるのは良い、という意見もあります。
獲られた側から見れば、プロテクトから漏れた選手より、2位や3位の指名権のほうが価値がある、という見方もありました。Bランクが狭くなったことや35歳以上のルールで、宣言する選手は増えるのでは、という声もあります。
否定的な意見
![]()
特にニュースを引用した投稿では、否定的な声が目立ちました。
一番多かったのは、2巡目や3巡目は補償として重すぎる、という意見です。「これでFA選手を獲る球団があるのか」「移籍は減りそう」という声が、いくつも見られました。
弱い球団ほど早い指名権を渡すことになり、戦力の均衡と逆になる、という指摘も目立ちました。下位の球団はAランクを獲りにくくなり、上位の球団や資金のある球団ばかりが得をする、という声もあります。
DeNAファンからは、35歳以上のルールだけなぜ今オフから急に始めるのか、という声が多く上がっていました。同じランクの選手を2人獲ったらどうなるのか、指名した選手に入団を断られたらどうなるのか、という疑問もありました。
![]()
補償の中身を疑問視する声も多くありました。Aランクの主力を獲られても、もらえるのはまだ実績のない新人です。しかも入団は翌年のドラフトのあとなので、主力が抜けた直後の1年は、補償なしで戦うことになります。すぐに一軍で使える人的補償のほうが良かった、という意見もありました。
また、指名権がもらえるなら金銭を選ぶ球団はないだろう、実質的には指名権の一択になる、という見方もあります。
制度そのものへの不満もありました。金銭だけで良かったという声や、人的補償・指名権・金銭の3つから選べるようにすべきという声。さらに、メジャーのように自動でFAになる仕組みにすべき、という意見もありました。
そのほかの意見
![]()
35歳まで複数年契約を結んで、そこから宣言する選手が増えるのでは、という見方もありました。Aランクを獲られた球団は、獲った球団が最下位になるのを願うことになる、という皮肉まじりの声もあります。
なお、関係のない10球団が損をする、という声もありましたが、指名権が移るだけなので、ほかの球団の指名順は変わらないはずです。
FA移籍は増えるのか
最後に、この制度でFA移籍が増えるのかを考えます。
![]()
まず、これまでの数字です。
- 2008年からの18年間で、国内のFA移籍は75人。1年あたり4人ほどです
- 直近の10年(2016〜2025年度)で、FA宣言をした選手は66人。そのうち国内で移籍したのが37人、宣言して残留したのが23人、海外に移籍したのが6人でした
- 有資格者は毎年100人ほどいるので、宣言するのは1割もいません
増えそうに見える点
![]()
1つ目は、35歳以上のルールです。有資格者の半分近くが、今オフから補償なしで動けます。
2つ目は、Bランクの範囲が狭くなることです。年俸9位と10位の選手は補償がいらなくなり、8位も金銭だけで済みます。
3つ目は、プロテクトリストを出さなくていいことです。若い選手を多く抱える球団にとっては、ありがたい変更です。
それでも移籍は抑えられる方向に
![]()
ただ、私は、むしろ移籍を抑える方向に働くと見ています。理由は4つあります。
1つ目は、補償がはっきり重くなることです。 今までの人的補償は、28人のプロテクトから漏れた選手でした。これからは、2巡目や3巡目の指名権を渡します。2位や3位から主力が多く出ているのは、先ほど見た通りです。金銭で済ませる場合も上限が上がり、Aランクは今まで年俸の80%だったのが、これからは最大130%が目安です。
2つ目は、補強が必要な球団ほど手を挙げにくくなることです。 Aランクの補償は2巡目なので、下位の球団ほど早い指名権を失います。最下位の球団なら全体13番目ごろです。ドラフトで立て直したい球団が、その指名権を手放すとは考えにくいです。反対に、優勝した球団なら渡すのは24番目ごろで、すぐあとに自分の3巡目の25番目が回ってきます。Aランクの大物ほど、上位で資金のある球団に集まりやすくなりそうです。
3つ目は、35歳以上のルールの効果が思ったより小さいことです。 過去18年で、35歳以上で移籍した選手は13人。そのうち9人は、もともと補償のいらないCランクでした。35歳を過ぎた選手が動きにくいのは、補償より年齢の影響が大きいと思います。
4つ目は、選手会とメジャーの例です。 選手会自身も8月の時点で、指名権の譲渡は移籍のハードルになる、と懸念を示していました。メジャーでも、補償の対象になる選手を獲ると指名権を失います。2019年には、カイケル投手とキンブレル投手が、6月のドラフトが終わるまで契約先が決まりませんでした。
私の見立て
![]()
ここまでを踏まえて、FA移籍は増えるどころか、むしろ減る方向に向くと予想します。動きやすくなるのは、35歳以上の一部の選手くらいだと考えています。
特にAランクの大物は、手を挙げる球団が限られそうです。宣言しての残留や、複数年契約での引き留めが増えるのではないでしょうか。移籍のハードルを下げるための変更が、逆にハードルを上げてしまう可能性もあると思います。本当の答えが出るのは、2029年の見直しのときです。
まとめ
![]()
- 今オフから、翌年4月1日に35歳以上の選手は補償なし
- 2027年と2028年のオフは、人的補償の代わりに、Aランクは2巡目、Bランクは3巡目の指名権か金銭で補償(Bランクは年俸4〜8位に縮小)
- ドラフトに影響が出るのは2028年のドラフトから
- FA移籍は、増えるどころかむしろ減る方向と見ています
来年のオフからは、プロテクトリストの予想もできなくなります。少しさみしいですが、ドラフトの見方は少し変わりそうです。
みなさんは、この新しい制度をどう見ていますか? なお、新しい制度の前年にあたる2027年のドラフト候補は、2027年ドラフト1位12人予想【10月編】にまとめています。
出典
- [スポニチ Sponichi Annex] 【記事全文】NPBがFA補償を変更へ 27年オフから人的補償を撤廃→ドラフト指名権or金銭に変更
- [中日スポーツ] NPB、今オフから35歳以上の選手の移籍では人的補償なし、段階的にFAの制度を変更
- [東スポWEB] 【NPB】FAの人的補償が来季オフから廃止…代替策はドラフト指名権か金銭
- [デイリースポーツ] プロ野球、FA人的補償を撤廃へ
- [日本プロ野球選手会] FA補償制度の見直し(人的補償撤廃)について
- [デイリースポーツ] FA移籍の「人的補償」見直し今オフは見送り「今シーズンからスタートさせるのは難しい」プロ野球選手会がNPBに伝える
- [J-CASTニュース] FA宣言の東浜巨、ソフトバンク残留へ 通算76勝と実績十分も...なぜ獲得球団が現れなかったのか
- [NPB] 2026年度 FA資格取得選手/各年度のフリーエージェント宣言選手
- [Wikipedia] フリーエージェント (日本プロ野球)(2008年以降の国内FA移籍の集計に使用)